「思い出した事があるかい、子供の頃を」
「その感触」
「その時の言葉」
「その時の気持ち」
「大人になっていくにつれ、何かを残して何かを捨てていくのだろう」
「時間は待ってはくれない。」
「握り締めても開いたと同時にはなれていく。」
そして…

Prologue
カタカタカタカタ…。
部屋の中に静かに響く音。
細く小さめな手が忙しなくキーボードの上を動き回り、液晶ディスプレイの中へと言葉を生み出して行く。
その華麗な手の動き、心地よく響く音。
その指の下に有る物が、ピアノの鍵盤であったら、美しいメディーを奏でているだろう。
茶色の髪を肩の辺りで外跳ねさせた少女は、端末の液晶から視線を外すと、それまで動き続けていた指先を止めて何かを考え込むように唸った。
止まってしまった腕を横のマウスへと伸ばし、画面の最上部へとスロールさせると、入力した言葉を読み返した。
最新公開日誌
まみむめも!(結局流行らなかった〜)
もうやめるだの何だの、いろいろとありましたが、またまた日記更新しちゃいます!
だって皆も気になってるよね? 愛と友情、勇気の大作戦がどうなったのかって。皆が話し聞きたさにウズウズしちゃって、ガーデンまでウズウズが伝わって落ちたりするとイヤダからちょこっとだけ教えちゃいましょう!(ほんとは話したくてあたしもうずうず〜)時間圧縮が起きた時のこと、
――コンコン…
部屋にノックの音が響く。
渋々とパソコンから顔を上げ立ち上がると、パタパタと走りながら扉の向こうの客人に「はい!ハ〜イ!今開けま〜す!!」と大声で叫ぶ。
扉の開閉ボタンを押すと、目の前にはよく知った友人が立っていた。
「やあ!セフィ〜!」
目の前の彼は、トレードマークとも言えるテンガロンハットを、人差し指で押し上げると、にっこりと微笑んで挨拶をした。
「アービン!」
「そろそろパーティーが始まるみたいだよ?今キスティスが、スコールとリノアを呼びに行ったから、セフィもそろそろ支度して出ておいで?」
「うわ!もうそんな時間やったんや〜!」
「そうだよ〜。アルティミシアとの闘いが終わったお祝いにっ、てシド学園長が用意してくれたパーティーだからね。主役達が遅れちゃダメだよ〜。」
目の前の彼は口元で人差し指を左右に揺らし「駄目じゃないか〜」とふざけて見せる。
「ありがとな〜!」と顔の前で両手を合わせて礼を言うセルフィに、アーヴァインは笑顔で答え「また後でね」と言い、パーティー会場へと向った。
デスクに戻ると、サッと残りの文章を読み返し 「う〜ん」 と考えるように天を仰ぐ。
よ〜しっ!と一声上げると、続きの文章を書き始めた。
……でもここまで書いてちょっと考えた。アルティミシアが何を考えていたのかって。
彼女は、きっと生き残ろうとしたんだよね。
過去から時間を圧縮して、知ってしまった自分の運命を消そうとした……んじゃないのかな。だとしたら、ここであたしが一方的に悪く書くのはフェアじゃない―――そう思ったんだ。
だから、つづきは直接話そう!聞きたい人はあたしのところに遠慮なくきてね!学園祭実行委員の勧誘もオマケでつけちゃうぞ〜。それから、
一度顔を上げ、「あっ!!」と思い出したように声を上げる。
「しまった〜!ビデオカメラの充電!すっかり忘れとった〜!!」
カメラの電源を入れバッテリーの残量を確かめるが、電池の残量を示すマークは三つの内、一つしか残っていない。
ガックリと肩を落としながら充電器にセットする。今からでは間に合うはずが無いのだが、気休め程度にはなる。
再びデスクに戻り、残りの文章を書き上げる。
「よーしっ!!こう〜し〜ん〜っ!」
Enterキーを勢い良く叩き、セルフィは日記の更新を済ませる。
イスから立ち上がると、クローゼットの中を睨むが、こんなギリギリの時間でコーディネートを考えている余裕は無い。
横に立て掛けてある鏡をチラッと覗き、今、着ているお気に入りの黄色いサロペットスカートを見る。
「ま、固いパーティーやないし、コレでええよな〜!よし!いっそげ〜!」
充電器からカメラを外し、扉へと向う。
「それでは、いちきま〜す!」
暗くなった部屋に、扉の閉まる音と、遠くなってゆく足音が、うすらと響いた。
そして、あの日から一年が経った今。
彼らの前に、試練の時が再び訪れようとしていた。