
13.朱
無声映画のような世界だった。
一切の音が失われた空間で聞こえるのは高鳴った鼓動だけ。
生きる為に波打つ低音が嫌と言うほど耳元で鳴る。
呼吸ができない
どれだけ走ればいい?体が悲鳴を上る。足が痛みに耐え震えている。
木の枝が体を突き刺す。まるで行く手を阻む者の腕のように。
呼吸ができない
振り返る。
赤く浮かび上がる幾つもの火明り。
赤く浮かび上がる幾つもの憎悪の顔。
動かされる口からは何も聞こえない。
何故ですか?
目の前に飛び散る鮮血。朱に染まる。
自分のものではないそれで朱に染まる。
大切な人のそれで朱に染まった。
炎が体を覆い全身を痛みと熱さで焼きつける。
聞こえた心の悲鳴。
何故ですか?
何故ですか?
――― 何故 ―――